9月
俺の大人気なくてカッコイイばあちゃん
「亮太!これで終わりだね!」
「くそ!まだまだ…!」
俺の最大にして最強のライバルは、しわくちゃな顔で不敵に笑う。
『K . O!!』
今日も俺は必死の抵抗虚しく、テレビの前で地団駄を踏んだ。
「くっそー!!また負けた!」
俺の可愛い『スーパーレディ』は、ばあちゃんが使うムキムキのおっさん『デス・ジョンソン』に
指一本触れることなくボコボコにされた。
「わっはっは!まだまだひよっこだなぁ、亮太は!」
ばあちゃんは孫に勝って大人気もなく喜んでいる。
ばあちゃんがゲームを始めたのは、俺が小学生の時。
一人っ子の俺を寂しくさせないために、下手くそながらも相手をしてくれていた。 なのに…
「こんな老ぼれにも勝てんとは、たるんどるのぉ!」
今や完璧なゲーマーだ。
いつの間にかコントローラーも変な持ち方をして、俺の知らないコンボをいくつも使ってくる。
『 ROUND…FIGHT!』
三試合目の鐘が鳴る。
俺のキャラクターの残機はあと一つしか残っていない。
昔はばあちゃんに負けることなんてなかったのになぁ…。
「やったー!3連勝!ばあちゃん弱すぎ!」
「まぁた負けちまったよ!亮太には敵わんなぁ」
「ばぁちゃん!もっかいやろ!!」
「仕方ない子だねぇ」
『K . O!!』
昔を思い出したその時、気付けば俺のスーパーレディは完全にノックアウトされていた。
「アッハッハ!!亮太にゃ、一生私は倒せないよ」
そう言って白い歯を見せてニヤリと笑う。
くそ。悔しいけど……カッコいいな、俺のばあちゃん。
「ふぅ」
ばあちゃんは軽く息を吐いて、腰をとんとんと叩く。
ここ数年で増えた癖だ。
小さい頃から隣にいたこの背中が、昔より丸くなっている。
「もう一戦やるかい? 亮太」
今度は俺が、ばあちゃんの気が済むまで付き合ってやる。
「やるに決まってんだろ!次はぜってぇ負けねー!」
だから長生きしろよ、ばあちゃん。